ゆらゆらと揺れてる意識の中で、頬に触れる温もりの心地よさに気付いた。

夢なのか現なのか、定かではないながらも何処か安心できるその感覚に擦り寄る
優しくて、暖かくて、心地よくて…  、まだ頭が冴えない  これは夢?
自分の名前を呼ばれたような気がするけれど、だれの声だったか思い出せない




俺を呼ぶのは誰?




瞬間、今まで俺の頬に触れていた温もりが離れて行くのが判った。
体を包んでいた心地よさが失われていく、まるで生気を吸い取られるみたいに
自分の指先が冷たくなるのが判って、俺は思わず何かも判らないそれを捕まえる。

おいていかないで、 独りは嫌だ !




「 シン…?」



伸ばした腕はしっかりとそれを捕らえたのか、手のひらに戻る温もり。
その温度に満足し、再びまどろみの中に溶けて行こうと意識を濁した俺のすぐ傍で 声
夢じゃない  そう確信して目を開けば、薄暗い中でなにかを握り締めている自分の手が見えた。
未だはっきりしない視界でその先をたどれば、そこにいたのは困った顔の・・・ 


「…?」

「ごめん、起こしちゃった?」

「あ いや、」



よくよく見れば、俺が捕まえたそれとは彼女の腕でそのもので
必死になったものだから、俺の握る力で白くなってしまったの腕から、慌てて手を離した。
ごめん、痛かったよな と顔色を伺えば、穏やかな声で平気と微笑んでくれたから安心する




「シンが」


彼女はそう言いながら、今度は俺の頬に手を伸ばした。
優しくて、暖かくて、心地よいこの感覚。    …そうか、あれはの掌だったのか
そうしてそのまま、俺の頬に中指を滑らせる。



「泣いてたから、わたしも辛くて」



そう言われて初めて、自分が泣いていると言うことに気が付く



「急に腕つかむから、びっくりしちゃった」



そう言うの笑顔は、どうしてか今にも泣き出しそうなものだった。
なんでお前がそんな顔してんだよ、と言いかけて、急きを切ったように目じりに溜まっていた涙がボロボロと零れ落ちた。
自分でも驚くくらいのそれに、目の前のはより一層驚いた表情で目を丸くする



「なんで俺、泣いて…っ」



意味わかんねーって、笑おうとしたのに、それすら上手くいかない。
心の奥にいつも居る不安がどっと押し寄せて感情を可笑しくしてしまったみたいだ。
胸の中がざわざわと騒いで、鼻の奥がツンとする。  涙が、止まらない


次から次に流れていく涙を隠すように背中を向けようとするけど
それはの優しい けれど、強い腕に阻まれた。

何も言わずに、ただは俺の体をその両手で抱きしめる。
そうやって触れられるまで、自分の体がこんなに冷たく震えているとは知らなくて
そしてやっと、意識がまどろむ前に自分がなにを見ていたか、思い出した。


妙にリアルで、生々しい、嫌な夢


いつでも、何処にいても俺だけが取り残される。独りになる。
不安で哀しくて腹立たしくて、それなのに誰も俺を気にも留め様としてくれなくて
夢だと、早く目覚めろと願うのに、それは叶うこともなく


独りは嫌だった。
本当はずっと誰かに守って貰いたかった。




「大丈夫、 ひとりぼっちじゃないよ」




だから、ね、 そう言っては笑った。






泣かないでと 泣きながら






(2008.05.21 Alice)