ふわ、ふわ、と私の額に触れそうで触れない距離を刹那の前髪が舞う。
閉じられた瞳の睫毛が同じように少しだけ風に揺れるのを眺めてぼんやりと考えた。

刹那と付き合うようになって1週間。
勿論、他の人たちに比べれば一次的接触を許して貰えているものの、
イマイチ、恋人らしいというか進展というか、そういうものに見舞われていない。
刹那から行動を起こしてくれるだろう、なんて、そこまで自惚れてはいないから
私からそれとなくはしたなくない程度に迫っては見るものの、いつもかわされてしまう。

もしかしたら、そう言う欲がないのかもしれない。とも思えてくる。


まだ16歳といえばそうだけど、最近の16歳は結構進んでるものでしょ。
まあ、刹那だから で納得出来てしまう辺りからもう諦めているのかもしれないけれど。



「邪魔だ」

「え、あ、ごめん」


つい考え込んでしまっている内に、俯いてしまっていたらしい。
刹那の腹筋運動を手伝う、と足を押さえている係に立候補した私の頭に当たらない距離で、
刹那が無理な体勢を留めている。

謝罪と同時に素早く頭を後ろに下げれば、74、と刹那が呟いた。
ノルマは100回だった、と思う。

個人的に言わせてもらえれば、そんなに逞しくなって貰いたくない。
どちらかというと小さくて弱そうで可愛らしい方が私は好きだからだ。
そう考えて、この話をした時にティエリアに軽蔑の眼差しを向けられた事を思い出した。

まったくもって失礼だ。 私はただ可愛い刹那が好きなだけなのに。
きっと不機嫌な猫みたいに睨みつけられるから、本人にはけして言わないけれど。



「…何故そう身を乗り出す」
「え、 す、すいません…」


そしてまた刹那が憮然とした表情で私を見る。 何度も自分のペースを乱されれば誰だって気を悪くするものだ。
今度こそしっかりと彼と距離を取りながら、足を押さえる体に体重をかければ、刹那が小さく息を吐くのが聞こえた。


「刹那?」

「………。」


少し表情に変化が出たのを感じ取って、すかさず声をかけてみるもあっさり無視されてしまう。
が、その顔を確認するようにずい、と身を乗り出した瞬間、刹那の眉が羞恥に歪むのを私は見てしまった。

褐色の頬が、少しだけ紅に染まっているのはトレーニングの所為ではない。




「刹那?」

「…。」

「刹那」

「……。」

「刹那ってばー」


結びついた答えに頬が緩みそうになるのを堪えて、彼の瞳を覗き込めば 突然刹那が立ち上がった。
勿論、彼の足の上にいた私は反動で後ろに転がることとなる。 見上げた瞳は一瞬だけ私を見て、足早に出て行ってしまった。


今日のノルマは終了だ。 と呟いて。





「……まだ98回、だったんだけどなぁ。」






イタズラにねこじゃらし



(2008.08.09 Alice)