「なにしてるの、ロロ?」




携帯に付けられたストラップを大切そうに撫でながら恍惚としていた彼に声をかける。
途端、まるで至福の時間を邪魔されたかのようなあからさまな嫌な顔を返されたので思わず苦笑い。
何の用ですか、と口調こそ穏やかであるもののその声色はあまりにも攻撃的だ。


「用、…っていうか、ロロが居るのが見えたから」


つい、と付け足せば思いっきり溜息を返された。
用も無いのに話し掛けるなとでも言いたげな横顔に、相変わらずだと思わず笑ってしまう。


「なんなんですか、いきなり笑い出すなんて。」
「相変わらずルルーシュ以外の人には無関心だなあと思って。」


私は意外とロロのこういうところが好きだったりする。
他の人は口を揃えて出来ればかかわり合いたくない、というけれど。

ルルーシュという飼い主にはこれでもかと言わんばかりに喉を鳴らすくせに、他人には関心すら向けようとしない。
なんというか、警戒心の強い猫を相手にしているような。そんな気分

だけど知っているのだ


「ロロ」


そうやって優しく呼べばちらりと瞳だけこちらを見てくれること。
いつもつっけんどんにしているようで、実は日に日に口数が増えていくこと。
隣に腰掛けても追い払わないで居てくれること。



「用も無いのに何度も名前を呼ぶのは止めてください。」

「だって好きなんだもん」



ふふ、と笑えばまた溜息。 彼と会話を交わしているという事でご機嫌になっている私に反してロロは至って不機嫌だ。
私がこうやってロロに好意を露にするのは珍しいことではない。
それはルルーシュと彼が一緒に居る時も例外ではない為に、最近ではなるべく学内でルルーシュはロロを遠ざけるようにしている。
どうもそれが彼にとっては迷惑なことらしく、私と居ると何時もロロのご機嫌は斜めだ。



「貴女と居ると兄さんが嫌な顔をするんです。」
「じゃあ私のこと無視すればいいじゃない」



判っていて、私はわざとそう言う。




「でも、ロロは優しいもんね」


だからそんな事出来ないんだよね。 それにロロは至極嫌そうな顔をした。
僕は優しくなんてない、と苦々しげにはき捨てるロロは私を見ようとしない。
その顔に、自分はルルーシュ以外に興味などないのだと、初対面の時思いっきりつっぱねられたのを思い出す。
あの時はろくに自己紹介すらさせえもらえなかったなあと思わず頬が綻んでしまう。
あの頃に比べれば、随分と懐いてくれたものだと私は自分の健気さ(基執拗さ)を誉め称えた。



「好きだよ、ロロ」



いつものように、いつもの台詞を彼へと贈る。 そうしてそのまま無言で彼が立ち去っていく、というのが一連の流れ。
今日もきっとその不機嫌面を認めたまま行ってしまうのだろうと思っていれば、 予想外に私を振り返るロロ。

細められたその瞳に、どうしたものか と一瞬うろたえてしまう。




「僕は貴女を幸せになんてしてあげられない」




その言葉に、きょとんと目を丸くする。  そうして、場に似つかわしくないと判っていながら思わず吹き出してしまった。
当然、私のその反応により一層気を悪くした様子のロロは私を睨みつける。



「ご、ごめん  だってロロがおかしな事言うから…!」


このままじゃあ折角の予想外の展開がいつもどおりに戻ってしまいそうだったので、
私は慌ててロロに弁解の意を述べる。 それでもやはり納得の行かない様子のロロ。


「貴女は僕にそう言うことを望んでいるんでしょう」

「別にロロになにかして貰おうなんて思ってないよ」


彼の言葉にきっぱりとそう返せば、今度は珍しくロロが目を丸くした。
幼い顔つきにその反応がやけに似合う気がして、内心で可愛いなあなんて和んでしまう。
私の言葉を理解しかねるのか、ロロは私の言葉を促すように じゃあなんなんですと続けた。


「ただ私はロロと居るだけで勝手に幸せになれるし、それで尚且つロロを幸せに出来ればいいなあって思ってるだけ。」


ロロのことを考えるだけで幸せな気持ちになれた。
ロロがいるっていうだけで毎日が一段と楽しく感じられた。
それが例え今は愛情の押し売りだったとしても、何時かそうじゃなくなる日がくればいいなと思う。


「だからロロが気に病む必要なんてなんにもないよ?」

「・・・寝言は寝てからにしてください。」


つっけんどんな声だけを残して身を翻した彼の背中を見送って、私は一人こみ上げてくる幸せに頬をほころばせる。







叶えて優しい君
(その真っ白な頬が桃色に染まっているだなんて、彼は気がついていただろうか)


(2008.08.11 Alice)