「たーちーむーかーいー くんっ!」 休憩中のグラウンドに響くはずんだ女の子の声に誰もが振り替えり、目線を向ける。 そうして彼女の姿を捉えたかと思えば妙に納得したような顔つきで俺を振り返って、 誰より先に彼女、 さんの従姉弟である鬼道さんが大きな溜息をついた。 嬉しそうに小走りで近付いてくるその人の両手にはなにやらがさがさ音を立てるビニール袋。 指先まで真っ白にして駆けてるその足取りがやたら危なっかしくて、 すぐに俺は彼女の元へ駆け寄って、その両手に下げられたビニールを奪いとる。 「わあ、ありがとう、立向居くん!」 あんまりにも嬉しそうにして笑うものだからつい口篭もってしまって、 いえ、とかその、とかもごもご言うのが精一杯で、じわじわ込み上げて来た熱から逃げ出したくて、 両手に持ったビニールをさげてベンチまで一目散に走り出した。 背中の方では、さんが鬼道さんにお小言を言われているのが聞こえてきて、 しゅーんと項垂れているであろう彼女の沈んだ声と、それを見て笑うチームメイトの声。 ベンチに行けばマネージャーが居て、俺を見るなり好奇心にみちた瞳になる春奈さん。 ほらほら、ここはいいから早く戻って!なんて背中を押されてけしかけられて、 体を上ってきた熱だってまだ半分も逃げ出しちゃ居ないのに、 (子供の頃からの癖が抜けない頬はもちろん紅潮しているに違いない) とぼとぼと、盛り上がっている輪の近くまでようやく辿り着いたところで、 さんが俺を見るなりまた嬉しそうに瞳を細め、俺の名前を呼ぶ。 すぐ傍にいた綱海さんは至極悪い顔で俺のことをにやにや見ていて、なんだかますます頬が熱くなる気がする 「あのねあのね、みんなに差し入れなの!」 そう言って先程俺がベンチまで運んだ袋を指差す。 リンゴとオレンジとイチゴとグレープ、早い者勝ちだよーってさんが続けた そういえば、やけにひんやりしていたのは中身の所為だったのか、と納得する時には既にとき遅し 「アイス!」なんて口々に叫んで駆け出していたチームメイトはもうあっと遠くの方だ。 「えへへーっ、立向居くんは特別なので、はい!これ」 何時の間にか俺の隣りに来ていたさんが首を傾けながら自分のアイスの片割れをコチラへさしだす。 チョコレイト色をしたそれを口に含みながら、ちらりと横を見遣れば 自分とおんなじソレを幸せそうに食べ進める人の横顔。 陽の光にすかされた茶色い瞳をふちどる長い睫毛、アイスの水分に塗らされた唇、口に含んだそれをごくりと飲み込む喉、 ゆっくりと視線が下がって、そうしてもう一度その瞳に目線が戻ったときには彼女もこちらを向いていて、 美味しいねえ、なんて笑うものだから、なんだかたまらない気持ちになって思わず俯いてしまった。 (2010.05.29 Alice) |