困った。 研磨のロッカーを前にして私は腕組みをする。右手には少し前に半ば押し付けられたラブレターを握ってしばらくになる。 『あの、これ、弧爪くんに』 なんて、顔を真っ赤にした2年生の女の子は私の言葉もろくに聞かないまま走って行ってしまったので、 事実上請け負ってしまったからには渡してあげるのが筋、なの、だろう。とは思いながらも 私だって研磨の事が大好きなのに、どうしてその私が他人のラブレターを研磨に渡さなくてはならないのだ。という釈然としない気持ちと、 しかし受け取ってしまったからには…という気持ちがせめぎ合った結果手渡しではなくロッカーにでも突っ込んでやればいいのではと思い立った次第なのである。 ところが、ところがだ。 いざ研磨のロッカーを前にしてラブレターを投函しようとした時気が付いてしまったのです。 あの子、封筒に差出人である自分の名前を書いていない事に。 一応手紙を押し付けられた時にもれなく自己紹介をされていたので、私は彼女の所在を確認できるのだけれど果たしてこの手紙はどうだろう。 もしかしたら中の便箋にクラスや名前なんかが書いてあるのかもしれないけれど、まさか開封してそれを確認するわけにもいかず、結論として途方に暮れているという訳なのである。 「うーん」 見栄を捨てて私が手渡ししてあげればそれで済む話なのだろうけれど、どうしても自分の気持ちがそれを許さないから困ってしまう。 あの子からしたら幼馴染である私に頼めば、というところだったのだろうけれども実に迷惑な話である。 「…人のロッカーの前でなにしてるの」 うーん、うーむ、と頭を捻っている内に私の背後から怪訝そうな声が聞こえる。 その声だけで誰なのかすぐにわかってしまうからほんとに悔しい。 研磨、と名前を呼とあからさまに研磨は訝しげな顔をした。 ここで本人に出会ってしまったのならば、仕方が無い。 そんな研磨に、私は握り締めていたお預かりラブレターを差し出した。心の中でため息をつきながら 突き出されたソレがなんなのかいまいちピンとこない様子の研磨にほんの少しだけ苛々しながら「ラブレターだってさ」とゆっくり呟やく。 それから小柄で可愛らしい雰囲気のあの子宛から、と付け足すのも忘れずに。 「あのさ」 差し出されたラブレターを受け取る様子もなくしばらく困った様に黙っていた研磨が、抑揚のない声で言う。 そういうのって、そんなに処遇に悩むようなものなの。なんて、淡々と喋るので私は思わず首を傾げた 「それは、どういう意味?」 「え…、好きな相手宛のラブレターなんて、預かるものなのかな、と」 純粋に疑問に思って。 と、研磨は言った。 研磨の言葉の意味がいまいち理解できなくて私は首をかしげる。 いつもの雰囲気とはなんとなく違う彼に疑問ばかりが浮かんで増えていく 「えっと、もしかして研磨、怒ってるの?」 「えっ」 「え?」 研磨が目をまん丸にして私を見る。 私もそんな研磨をじっと見つめる。 刹那、今まで見たこともないような表情で研磨が口元をゆがめる。心なしか、頬が赤い。 なんだかよくわからないけれど研磨が照れたような慌てたような顔をするものだから、私まで耳とか頬が熱を持ち始めて、 どうしていいかわからなくなって、とりあえず研磨落ち着いて。って言いながら彼の両手を掴んだら研磨の頬がもっと赤くなった。 そして、沈黙。 こんな研磨、見たことない。なんて、少しずつ冷静さを取り戻してきた私は視線を合わせてくれない彼をそっと観察する。 捕まえた両手は振りほどかれるわけでもなく、変な体勢で両手を握られてただただ研磨は沈黙を貫く 「私、研磨のこと好きだよ」 「…知ってる」 「……研磨は、私の事、好きなの?」 思い切ってそう訪ねてみたら、握った研磨の腕がピクリと跳ねる。 少しだけ悩んだように一度口を開きかけてまた結んで、一呼吸して小さな声で 嫌いではないよ、とそう呟いた。 そんなんじゃ判らないよ、好きなの、嫌いなの、ちゃんと教えて。 意地悪だってわかってて研磨を問い詰める 「どちらかといえば、好き、だと思うよ、のこと」 に触られるの嫌じゃないし、一緒に居て疲れないし、昔から好きだったと思う。 なんてたどたどしく言葉を続ける研磨にたまらなくなって思わず油断してた涙腺がわっと緩んだ 唐突に泣き始めた私に研磨は一瞬ギョっとした顔をしたけど、なんで泣くの。って困ったようにおろおろする 別に一方的で構わないと思っていたし、私の好意を拒まないでくれるだけで十分だと思っていたのに、 なんでそんな事言うの、研磨ほんとずるいよ。 私の予想では曖昧な返答が返ってくるのだと思っていたのだもの。 情けない声でもにょもにょ話す私に、研磨がますます眉毛を下げた。そうして今度は いやだって、ほんとの事だし…。 だって (2014.04.23 Alice) |