「遅い、何処で油売ってた」


ぜいぜいあがる息、首筋にはじっとり汗をかいて体育館に戻ればすぐ 屑桐さんが私を咎める。
うう、ご、ごめんなさい、と もごもごしながら謝ると『対戦表の確認とメモをしておいてくれ』と
今度は優しい声で頭をぽんぽんと撫でられる。


「あー絶対屑桐さんだ、そうに違いない」

持参していたノートを開きながら一息つけば今度は後ろでじとっとした声のみぃちゃんが私の隣りに立つ。
先程彼が言った言葉の意図が読めず、なにが?って首をかしげるとみぃちゃんはちょっと不貞腐れたように別にと吐き捨てた。




割と早い順番だった華武の名前は既に対戦表を埋めてしまっていて、
私は張り出されているそれをしっかりメモにとりながら探すのは先程であった人たちの姿。




「なに探してんの、ちゃん」
「ひゃあっ ちょ、なんでそんなとこに手を置くの」


不意に掛けられた声と同時に、むんずと私の両胸を掴むみぃちゃんの声。
それに気付いた録くんが白い目でこちらを一瞬見て、すぐさま目を背けた(う、裏切り者!)
抗議する私の声なんてちっとも聞こえていないみたいで、みぃちゃんはやわやわと人の胸を好き放題に触っている
ひ、人の目っていうのを気にして下さい御柳さん 他校の生徒が見てるでしょ


「もおっ、や め て  屑桐さんに言いつけちゃうよ!」
「おーコワコワ」

じたばたと身じろぎして漸くその一言でみぃちゃんは私を解放する。
恥ずかしい、 い、一生もんの恥を味わった気がする


「だって油売ってるが悪いんじゃん?」
「ごめんなさいしたのに、さっき…」
「屑桐さんにだろ? 俺にはまだじゃん、ジュースも買ってやったのに」
「うううう、 ごめん、ごめんなさい」


じゃあごめんなさいのちゅーは?なんてみぃちゃんがにやにやした顔で私を見たので
『あるわけないでしょ』っていおうとしたところで急に壇上が騒がしくなる。







「華武を倒すのは十二支だ!決勝だろうが2回戦だろうが関係ねーんだよ!!!」








壇上で今ここに居る全部の高校に向けて堂々と戦線布告をしてのけたのは、
やっぱりあのあまくにくんで、私は思わず笑みが零れてしまう。


そうしてこれも因果なのか運命なのか、
十二支高校はくじびきの結果私たち華武とは決勝であたる位置取りに決まった。




(2010.10.30 Alice)