![]() 「ねえ みぃちゃん」 初めて犬飼の"猿真似 飛竜"を目の当たりにしたは俺の制服のズボンをギュッと握り締めて 絞るように一言だけつぶやいた 『私、 あのボール 知ってる気がする』 「はぁ? なんで、今大会初披露だって解説も喚いてんだろ」 上手く言えただろうか。 上手く取り繕えただろうか、いつもの俺と同じように。 多少早口だったくらいで、他はいたっていつもと変わらないはずなのに はそんな俺の言葉なんてまったく耳に届いていない様子で、瞬きすら忘れてマウンドの犬飼を痛いほど見つめている 「人の話きーてないだろオマエ」 やばい 「自分から話し掛けておいて無視ってないんじゃね」 やばい やばい 「別にあんな投球なんてめずらしーこともねーだろ」 やばい やばい やばい ドクドク と心臓がやけに早く脈打っているのがまるで手に取るように判る。 回りの雑音も、歓声も、まるで最初からなかったみたいにシンと静まり返っていて、 ただ俺に聞こえるのは俺が苦し紛れに吐く言い訳のような言葉か、 心の中で呼吸すら侭ならないほど慌て始めた自分の本音か、 息をするのも躊躇われるほど引き込まれてしまっているのささやかな呼吸音くらいで 彼女の腰に回した両手の平にじっとりと汗をかき始めているのが嫌でも判る。 思い出すな 思い出すなよ たのむから、 まだ 思い出さないでくれ あっさりと3人討ち取った犬飼に主審がチェンジを告げる声すらもうっすらと何処か遠くの方で聞こえた感覚がした。 |