![]() 私たちの両親は共働きで割と忙しい人たちだった。 勿論愛情はちゃんと注いでくれていたし、2人とも大好きだったけれど、 それでもなによりまだ子供だった私にとっては毎日一緒に居てくれるお兄ちゃんが一番大好きだった。 強くて、優しくて、誰よりも野球が大好きで、 そんなお兄ちゃんが私は誇りだった。 「あー駄目だな、てんで駄目、お前野球の才能ねーわ」 「ひ、ひどい、冥ちゃんみぃちゃんが酷い事いう!」 「とりあえず御柳だけには言われたくないよな、」 「はあ? どの口がいっちゃってんの犬飼ちゃーん?」 「ちょっと2人とも、喧嘩はその辺に」 「まだまだガキだなーお前等も」 「あ、おにーちゃん!」 「っす」 「げーでたでた、またその説教口調が」 「そんなんじゃお前等にはやれねーなあ」 「は、はあ!? ばっ、ばっかじゃねえの? 別にコッチから願い下げだし!」 「と、とりあえず、御柳よりは俺の方がマシだと思います」 「はあ?てめーなに抜け駆けしよーとしてんだよ!」 「けっ、喧嘩しないでよお みぃちゃんも冥ちゃんも」 何時の間にかそうやって過ごす毎日が増えていって、 このままみんなで野球やって、夢を抱いて、笑って過ごしていけるんだって信じてたのに。 「あの日のことは事故だから、 みぃちゃんを責める気持ちなんて少しもないんだけどね」 「… でも、まだ思い出してからアイツ会ってないんだろ?」 余計なことを言うまい、と俺はただ事実だけを確認するよう慎重に言葉を選ぶ 今ココで御柳を攻め立てるような事を言ったって、を困らせるだけだと判っているから。 俺のその言葉には『まいったなあ』と力なく笑う。 「私もそうだけど、みぃちゃんの方が私に会いにくいのかなあ って考えちゃって…」 思い出したあの日ね、私スタンドの観客席で思わず泣き崩れて取り乱しちゃって それを見てみぃちゃん 怖い顔して私を屑桐センパイに預けて何処かに行っちゃったんだ。 落ち着いてから連絡とろうって思ったんだけど、今のところ無視されっぱなしで どうしたらいいのかなあ、冥ちゃん。 とは困った顔で笑う。 「逃げてんだろ、御柳は」 少しでも後ろめたいと、自分が思っているからこそ。 「私はね、お兄ちゃんがみぃちゃんを助けてくれて良かったって思ってる」 だって もしあの時、みぃちゃんが居なくなってしまっていたらって考えたら きっと今より辛くて哀しくて、私も消えてなくなっちゃいたいに 違いないもん。 だから今こうやってみぃちゃんと一緒に生きられるようにしてくれたお兄ちゃんにとても感謝してる。 「…私、とんだ兄不幸者だね」 そう言って、はまた泣いた。 「御柳が好きなんだろ?」 そう言うとは力なく頷いた。 最初からきっとこうなるって俺は知っていたのだろう。 彼女を今まで見守ってきたのは俺自身が彼女に特別な何かを抱いているわけではなくて、 きっと、あの人の面影を少しでも感じていたかっただけなんだ。 そう思わなきゃ 報われない。 |